Autumn Collection 2025

Autumn Collection 2025 “Dance in Hidden Valley”

海外を旅しながらデザインをするようになり今回で6シーズンとなる。
中でも最も印象に残っているのは、初回に行ったレッドロックキャニオンで見たコットンキャンディのような夕日と星空だ。火星を歩きながら宇宙空間を眺めているような経験は僕のデザイナーとしての思考回路やスタイルを変えてくれた気がした。
それと同等以上の経験をするために、今回の旅ではジョシュアツリー国立公園という東京都の1.5倍もある砂漠地帯で星空を見る計画を立てた。

今回の旅の拠点となったのは、街中に僕が大好きなミッドセンチュリーテイストの建築物が立ち並ぶパームスプリングス。国立公園まではそこから1時間ほどのドライブだ。

ジョシュアツリーに到着して、スターゲイズ(天体観測)に適した場所を散策している時に、“Hidden Valley (隠れた谷)”と書かれた道を見つけた。岩場の間を歩くように進んで行き、色が変わり始めた空を見ながらぼんやりと歩いていたのだが、空色に気を取られ過ぎて帰り道を見失い“砂漠で遭難”という恐怖の言葉が頭を過った。 身軽に歩けるようにと、僕の手持ちの装備は水とリンゴひとつだけだった。いざという時に備えて唯一の食糧はポケットに大切にしまい、ひたすら歩いた。結局そこから1時間弱歩き続け、出口を見つけることが出来た。空はすっかり暗くなっていたので、その周辺で夜空を見ることにした。

大きな岩場の上に横になり視界全面に広がる星を眺めながら食べるリンゴは、蜜が滴るほど濃厚で生絞りジュースのように思えた。大地と一体化したような気分のまま、気が付けば僕は深い眠りに入っていた。ここ1ヵ月ほど、日本では良質な睡眠を摂ることが出来ずに悩まされていたので(コレクションのためのデザイン期間はいつもナーバスだ)、夜空の下でのひとときの眠りは身体が溶けるほどの快感だった。
どのぐらい眠っていたのか分からないが、遠くで聞こえる男たちの話声で目が覚めた。彼らは大きな荷物を持って真っ暗闇のHidden Valleyの方へ進んで行き、暫くすると遠くから音楽が聞こえてきた。どんちゃん騒ぎをしている雰囲気だが、僕が先ほどまでいたHidden Valleyには宴をする場所など存在すると思えない。その名の通り、僕が先ほど食べたリンゴと同じくらいジューシーな果物が実る“隠された緑地”で社交界でも開催されているのだろうか?
まるでおとぎ話のような状況に自分を疑い始めた。
僕はまだ夢を見ているのか____?
それとも、あのリンゴが僕を別世界に誘ったのか____?

結局彼らが何をしていたかの真相は掴めなかった。
その答えを探して、Hidden Valleyの入り口で得た感覚をそのまま洋服に反映させようと僕は今季のデザインに取り掛かった。
深い眠りについた後には別世界が待っている。砂漠地帯に人知れず現れたバラ畑。どこからやってきたのか、花々の間を駆け抜ける野ウサギ。普段は物静かな草木が宝石のように輝き始める。空をまたぐ虹には、はばたく鳥が黄金の光を照り返す。

そこへ一人の青年がやって来る。
眠気眼をこすりながら、彼が見た世界は天国か、それとも____。

See you in my dream,
glamb Head Designer
TK

  • ModelZen
  • Felix
  • Marco
  • PhotograghyYuko Takakai
  • Hair&MakeShota Nishiyama
  • StylingTK
  • Akihiro Takaiwa